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アルブル通信・感動エッセイ 2018年

2018年12月号「窓ガラス越しのメッセージ」

英語スクールの代表をされている土肥妙子さん。
 かつて学生時代に、サンフランシスコの家庭にホームステイをしたことがある彼女は、そこで「ほろ苦い体験」をしました。
 その体験は、何十年も経った今も忘れられずに心に残っているそうです。

 それは、サンフランシスコでのある日のこと。
 ひとりで遠出をした土肥さんは、帰りにすっかり迷子になってしまいます。
 あたりは暗くなりはじめ、不安が増していきます。
 まだ携帯電話なんて無い頃のことです。
 電話を探して歩きまわり、ようやく見つけたのは、スーパーマーケットの駐車場の片隅にある公衆電話でした。
 電話ボックスの中でホストマザーの声を聴いた瞬間は、まさに、船が難破して小舟で荒海をさまよっている時に、救助船を見つけたような思いだったそうです。
 ホストマザーは「すぐに行くからそこにいてね」と言うと電話を切り、そのわずか20分後には、オレンジ色のスポーツカーでかけつけてくれます。
 土肥さんは、まるで本当の母親のように自分を心配し、スーパーマンのように飛んできてくれたホストマザーに心の底から感謝しました。

 しかし。 彼女が「ほろ苦い体験」をするのはこのあとだったのです。

 サンフランシスコの美しい夜景が見渡せるホストファミリーの家に着いたのは、もうすっかり陽が暮れた頃でした。
 車庫に車を入れ、運転を終えたホストマザーは、土肥さんにこう言ったのです。
「タエコ、あなたはまだ、私に『サンキュー』と言ってないわよ」
 この言葉を聞いた土肥さんは「まさか!」と思います。
 涙が出るほど感謝しているのに! それを言葉にしていなかったなんて!
 この時、土肥さんははっきりと学んだのです。
「ありがたいと感じることと、その思いを相手の目を見ながら言葉にして伝えるという行為は、まったく別のことなんだ!」
 現在、こどもに英語を教えることもある土肥さんは、「『サンキューという言葉』を教えるのではなく、『サンキューと言う習慣』を身に付けさせる」ように心がけているそうです。

 次のお話は、2011年1月、北陸地方に記録的な雪が降った日の出来事。
 富山発大阪行き特急「サンダーバード40号」は、福井県内で大雪のため立ち往生してしまいます。
 この時、除雪作業の応援のために、近くの駅から派遣された長田一郎さん(仮名)。
 現場に到着した時は、その雪の多さに、ぼう然としたそうです。
 作業をはじめて数時間後のこと。
 背後からドンドンという音に振り向いた長田さんは、車内から小学生くらいの女の子が手を振っている姿に気が付きます。
 窓ガラス越しなので話はできません。
 女の子は、手にA4判くらいの紙を持っていて、そこにはこんなメッセージが書かれていたのです。
「がんばってくれてありがとう☆おしごとがんばってください☆ ☆みんなより☆」
 メッセージを手にニッコリ微笑む女の子。
 長田さんは、胸が熱くなるのを感じながら、笑顔を返します。
 このメッセージのことは、大雪と格闘する他の職員たちにも伝えられ、心が折れそうになる作業への強いエールになったそうです。

 職員たちの不眠不休の作業により、運転は再開し、「サンダーバード40号」が大阪駅に着いたのは翌日、実に32時間遅れのことでした。
 職員たちの除雪が、いかに苛酷だったかがわかります。
 苛酷な作業の中で、ひとりの女の子がくれた「ありがとう」のメッセージが、職員たちにとって、大きな力になったのです。

 日本には、「言わなくてもわかるだろう」という文化があります。
 でも、土肥さんが体験したように、言葉にしなければ伝わらないこともある。
 逆に「ありがとう」と伝えることで、それが相手の心の支えになることもある。

 「ありがとう」
 人生は、このたった5文字の言葉を相手に伝えるか伝えないかで変わります。
 明日から、1回でも多く「ありがとう」って言ってみてください。
 それだけで、すべてがうまくいくようになります。

夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語
西沢 泰生 著
《アルブル部》廣瀬 英子 選

2018年12月号「窓ガラス越しのメッセージ」