修理ができる地元のリフォーム店 ナカノヤ

アルブル通信・感動エッセイ 2018年

2018年9月号「私の家族です」

ある日本の電機メーカーの、中国工場での話です。
 一人の中国人女性が、工場長に抜擢されました。
 その工場は、それまで生産性が上がらず、不振な状態が続いていました。閉鎖になるという話まで持ち上がっていたほどです。
 しかし、彼女が工場長になって1年が過ぎたころから、驚くほどの成果が出始めました。そして、なんと2年目には、すべての工場で一番の成長率をあげることができたのです。
 めざましい成果を出したので、成績優秀者の一人として彼女は東京に呼ばれ、表彰されることになりました。
 表彰式が終わり、一人ひとりスピーチをすることになりました。
 当然、たった1年半で結果を出した彼女に注目が集まります。
「どんな画期的なことをしたのだろうか。参考にしたい。真似したい」
 他の工場長は、きっと時別なコツがあるはずだと、熱心に聞き入っていました。
 しかしながら、特段目新しい話は出てきません。
 会場に集まった工場長たちは、「なんだ~」といういささか拍子抜けした雰囲気に包まれていました。
 そんな空気の中、最後に彼女が毅然としてこんなことを言ったのです。

「最後にお伝えします。
 私は皆さんが絶対していないことで、毎日やり続けていることがあります。
 それは、朝の声かけです。
工場の一人ひとり、作業員全員に毎日欠かさず、挨拶をして、声をかけています」

 そういってスピーチを終えました。
「それがどうした?」「そんなこと?」
「普通じゃないの?」「期待外れだったな・・・・・・」
 そんな声も聞こえ、しらけた空気が流れました。

 そんな中、一人の役員が「これは絶対」何かあるはずだ」と思い、彼女の工場を訪ねることにしたのです。
 彼は行ってみて驚きました。
 その工場では、「こんにちは(ニーハオ)と、朝の挨拶をかけ合っていますし、笑顔も絶えません。他の工場では、作業者たちが明るく楽しそうに働いている姿は見られなかったのですが、ここは違ったのです。
 工場長の部屋に案内されてさらに驚きました。
 壁一面に作業員たち一人ひとりの名前と写真が貼ってあり、その下には鈴なりに付箋が何重にも貼られていたからです。
 1枚いちまいを見てみると、部下たちの家庭状況、家族の様子が事細かく書かれていました。
「5人家族。お母さんが病気で苦しんでいる」
「子供が右足をけがしている」
「誕生日は4月7日」
「ご主人は大工さんで今、出稼ぎに出ている」
「家からの通勤時間は自転車で2時間もかかっている」
「お酒が好き。肉は食べない」

 彼女は毎朝挨拶をしながら、一人ひとりの話を聞いて、丁寧にメモをとっていたのです。
 工場長としてというよりも、仲間の一人として部下に興味と関心を抱き、対話をしていました。
 この付箋は日々、増え続けています。
「すごいね~」
 と声を掛けると、
「いえいえ、当たり前のことしかしていません。もっともっとみんなのことを知りたいんです」
 そう目を輝かして答えていました。
 そして写真とメモを見ながら、

「これは私の家族です」

 彼女は胸を張って大きな声で言いました。
 これを聞いた役員は、
「あ~そういうことだったんだな。自分は仲間や部下のことにどれだけ関心があるだろう?」
 と、しみじみ感じたそうです。

心が3℃温まる本当にあった物語
三枝 理枝子 著
《工事部》成田 正春 選

2018年9月号「私の家族です」